
ようやく朝晩が涼しくなってきました。食欲の秋、ほうれん草や小松菜、ビーツといった野菜がおいしくなる季節です。
ところで、野菜の栄養は「胃や腸で吸収されるもの」というイメージがありませんか。ところが最近、お口の中の細菌が先に働かないと、体で使えるようにならない栄養素がある——という研究が報告されています。今日はその、少し意外なお話です。
ほうれん草やビーツの「硝酸塩」は、口の中で姿を変える
葉物野菜やビーツには「硝酸塩(しょうさんえん)」という成分が含まれています。野菜が土の中から吸い上げたものです。
この硝酸塩、そのままの形では体はうまく使えません。お口の中にいる細菌が「亜硝酸(あしょうさん)」という形に変えることで、はじめて体の中で働けるようになると言われています。亜硝酸には血管をゆるめて広げる働きがあり、血圧との関わりが以前から研究されてきました。
つまり、お口の中の細菌が「下ごしらえ」を担当しているわけです。歯みがきのときには少し邪魔者あつかいしてしまう細菌たちですが、なかにはこうした働きをしているものもいるようです。
イギリスの研究で起きた、意外なこと
2026年6月、ロンドン大学キングス・カレッジの研究チームが、この「下ごしらえ」についての報告を発表しました(British Journal of Clinical Pharmacology 掲載)。
健康な方にビーツジュースを飲んでもらったあと、砂糖入りのガムと砂糖の入っていないガムを、日を変えてそれぞれ噛んでもらう、という内容です。
その結果、砂糖入りのガムを噛んだときのほうが——
- 唾液の中の亜硝酸が約45%多かった
- 血液中の亜硝酸が約25%多かった
- 血圧が上の数値で約3mmHg、下の数値で約2mmHg低かった
という結果が報告されています。砂糖によってお口の中がやや酸性に傾いたことが、細菌の「下ごしらえ」を後押ししたのではないか、と考えられているそうです。
「では砂糖入りのガムを噛めばいいの?」——歯科医院としては、おすすめしていません
ここが、今日いちばんお伝えしたいところです。
研究チーム自身が「これは血圧の治療法ではありません」とはっきり述べています。効果は数時間ほどの一時的なもので、砂糖入りの製品を日常的に噛み続けることは歯の健康の面からは勧められない、とも明記されています。
当院も同じ考えです。砂糖入りのガムを長い時間噛むということは、お口の中が酸性の状態に長くさらされるということでもあります。むし歯のリスクを考えると、毎日の習慣としておすすめできるものではありません。
うちの先生も「面白い研究だけれど、これを読んで飴やガムを増やす人が出たら本末転倒だね」と話していました。
この研究から、受け取っておきたいこと
ガムの部分ではなく、その手前にある事実——お口の中の細菌が、全身に関わる仕事をしているらしい——こちらのほうが大事だと考えています。
お口の中には数百種類の細菌がいると言われています。むし歯や歯周病の原因になるものもいれば、こうして体の役に立っているらしいものもいる。「全部やっつければいい」という単純な話ではないということです。
だからこそ大切になるのが、お口の中を「きれいにしすぎる」ことではなく、お口の環境を整えることだと考えています。
たとえば、こんなことから
- 唾液がしっかり出る状態を保つ……唾液は細菌のバランスを保つ土台になります。秋から冬にかけては空気が乾き、お口も乾きやすくなる時期です。気になる方はお口の乾き(ドライマウス)についての記事もあわせてご覧ください。
- 歯ぐきの中の細菌を増やしすぎない……歯周病に関わる細菌のバランスは、ご自身では見て確かめることができません。歯周病検査で何がわかるのかをまとめた記事もあります。
- 食べたあとに整える……甘いものを完全にやめる必要はありません。だらだらと食べ続けない、食べたあとに歯みがきやうがいをする。それだけでもお口の環境は変わってきます。
おわりに
「野菜の栄養が、お口の菌の手を借りているらしい」。少し不思議で、口の中を見直したくなるお話でした。
秋は生活のリズムを整えやすい季節です。夏のあいだ冷たい飲み物やアイスが増えていたという方は、このタイミングで一度お口の状態をみておくと安心かもしれません。気になることがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
※この記事は研究報告をもとにした一般的な情報のご紹介です。診断や治療の判断は、実際にお口を拝見したうえでご説明いたします。
参考:King's College London / British Journal of Clinical Pharmacology(2026年6月18日発表)


